日本におけるブロックチェーンのリーガル【後編】

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士増島雅和氏、株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤健人、ALIS CEOの安昌浩氏

9月12日、「日本におけるブロックチェーンのリーガル」をテーマにしたtechain主催イベントが開催されました。ゲストスピーカーとして、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士で株式会社Aerial Partnersの顧問でもある増島雅和氏(以下、増島氏)、株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤健人(以下、沼澤)、ALIS CEOの安昌浩氏(以下、安氏)というスペシャリスト陣が登壇。当日の様子をレポートします。

後編では、「日本におけるブロックチェーンのリーガル」をテーマにしたイベントの参加者より募った、多くの鋭い質問に関し登壇者の3名が議論します。この記事は後編となっております。前編をまだ読んでいない方は下記よりお読みください。

前編では、「日本でブロックチェーン事業を行う際のレギュレーション」について増島雅和氏の基調講演をレポートしています。
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パネルディスカッション – 参加者から募った質問によるパネル

日本人のICOに関する行為で明確に禁止されているものはなんでしょうか?

増島氏

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士増島雅和氏
ユーティリティトークンの発行者を前提とすると、資金決済法による規制がかかります。規制の適用に当たっては2つの大原則があります。

①発行者が日本にいると適用
②発行者が外国人でも不特定の日本にいる人向けの販売にも適用

「不特定」の人に対する「売買」が規制の対象となります。「売買」は明確ですが、「不特定」の要件解釈は難しいです。どんなときに不特定なのか不明確。また、無償で渡す場合には「売買」ではないから明確な規制はない状態です。例えば、プライベートセールのケースは難しいです。要件は「不特定」のみで「不特定多数」ではないので、「少数」だから許されるとはいえません。

 

日本でサービス展開するときに気をつけるべきことはなんですか?

安氏

ALIS CEOの安昌浩氏
まず何に気をつけるべきかすら分からないと思うので、専門家と金融庁にしっかり相談することが大事です。資金決済法だけではなく金商法の問題になることもあり、素人判断は難しい。仮想通貨に詳しい専門家に相談する必要があります。

 

沼澤

株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤健人
税制を気にするプロジェクトも多いですが、まずは法務上の論点をクリアにするべきです。図らずして違法なことをしないように、適正なリーガルチェックを行うべきと考えています。その上で、税制上も最適な国でプロジェクト運営を検討するのが良いと思います。

 

増島氏

トークン発行した場合、取引所への上場を目指すことが多いはずです。トークンの上場にはまず取引所の審査を経て、自主規制機関に審査をかける手順になります。きちんとICO段階から法的規制を意識してクリアしていかないとこうした審査を突破することができずに取引所にも上場しにくいと思います。

 

沼澤

日本からの投資家かどうかをどうやって見分けるのでしょうか?

 

増島氏

IPで日本からのアクセスを弾いている場合にはOKといわれることも多いです。金融庁は「日本人ってどうやって確認したのですか?」まで確認しているので注意が必要です。

 

海外でICOして日本人に販売したいときにどうするのですか?

増島氏

これには2つのパターンが考えられます。
①そもそも大金がある人は海外のエンティティを持っていることが多いので、海外エンティティから買うことができることが多い。
②一旦国外に出てもらって、国外で売る。米法上の「SAFT」という仕組みを使って少数の投資家に販売する場合には、金商法の例外規定として販売することはできる。

 

新たにブロックチェーン業界への参入が増えている傾向のある産業はどこですか?

増島氏

自主規制団体は、仮想通貨交換業のライセンスを持っている業者のみの団体となっています。この団体に関していえば、海外の交換業者たちが日本参入に興味を持っていますね。

 

沼澤

産業というわけではないですが、トークン発行の新たなステージとして、「証券型トークン(セキュリティトークン)」プロジェクトが国内外で増えています。昨日もERC1400 という証券型トークン標準のERC規格が公開されていて、業界でも話題になっていました。

 

安氏

トークン発行については、スタートアップ界隈だと盛り上がりきれないと思います。というのも、規制が厳しいので、体力の少ないスタートアップによる発行が現実でないためです。「ベンチャー × ICO」は結構きびしくなっていくのではないかと思います。世界的な先進国の流れも含めてベンチャーにとってトークンという資金調達のハードルが高くなっている雰囲気を感じています。セキュリティトークンを扱うことも難しいですし、取引所への上場も含めて難しくなりそうですね。

 

行政機関は匿名通貨やDEX普及によるAML(アンチマネーロンダリング)/CFT(テロ資金供与対策)に対してどのような意見を交わしていますか?

増島氏

匿名通貨はコインチェックで取扱通貨から外されました。その理由はAMLが難しいからであって、匿名通貨だからダメとは言っていません。そもそも、支払いには一定の匿名性はあるので、その存在自体を否定しているわけではありません。

DEXについては、運営者がいないために規制が難しいです。交換業行為、媒介行為も規制されるわけですが、運営者がいなければ規制の対象がいない訳です。DEXを使ってくださいというマーケティング行為、DEXを使った取引を容易にする行為こそが規制対象となりえます。マーケティング行為と媒介行為は線引があいまいなので解釈は難しいところです。

 

トークンの交換全てに交換業必要なのは厳しすぎないですか?

増島氏

まず理解しておきたいのは、資金決済法を作ったときに、「ユーザー資産を預かるのになんて軽い規制なんだ」と言われていたことです。イノベーションのために規制を軽くしていたんですね。しかしその後、実際に数百億円の盗難事件がありました。そのために、今は交換業のライセンスへの規制を強化しているところです。DEXなどでユーザー資産を預からない場合にどうなるかについては、論点としては十分に議論の価値があると思います。

 

安氏

DEX開発主体は、メタマスクなどでスマートコントラクトで処理して、資産をDEXで預かっていない場合はどういった扱いになるのでしょうか?

 

増島氏

実は、DEXをどうするかあまり決まっていません。開発チームが特定できると交換業に当たる可能性があるとは思っています。

 

子会社を作って海外でicoして、日本の親会社に戻せば日本の法律は関係ない気もするんですが、それは可能でしょうか?

増島氏

法的には問題ないですね。むしろ税務的論点になるかと。

 

沼澤氏

税務的には論点があるところです。脱税になる可能性もあります。日本と租税条約を結んでいるか否かなど、個別に検討して対応する必要がありますね。
金融庁にOKをもらってから、あとからやっぱりダメだよとなってしまうこともありますか?

 

増島氏

基本的には微妙なケースには難色を示すのが金融庁です。簡単にOKですよと担当者が言って、実際は間違っていたら首が飛ぶ自体になりかねないですよね。エアドロップすらいいよとは言えない。

 

安氏

増島先生のおっしゃるとおり、金融庁に聞いてもYESかNOは言われないこともあります。ただ、明らかなNOは分かるので、最低限の法的論点の確認はしておくべきです。

 

NFT(ノン・ファンジブルトークン)やERC721は仮想通貨にあたりますか?

増島氏

1万円札は実は一枚一枚に番号を振っているので、ノンファンジブル、つまり固有性があります。ブロックチェーン上で猫などの固有性のある場合には仮想通貨にならない可能性があります。ただし、実態に沿って判断する必要かと思います。

 

アメリカNYでGeminiに匿名通貨Zcash(ZEC)が認可されましたが、日本ではなぜダメなのでしょう?

増島氏

前述のとおり、匿名通貨だからダメなのではなく、Zcashの特性を見て判断しないといけません。匿名性によって本来規制するべきところの何が妨げになっているのかを特定するべきです。日本でコインチェックの取扱通貨から取り下げたときは、匿名通貨でもAML対策ができていれば許されるケースがあることを規制当局が十分に理解できていませんでした。匿名通貨=ダメはあくまで初期の議論なので、今後検討の余地があるところです。

 

最後に

沼澤

そもそも、ALISをはじめとするブロックチェーンプロジェクトは、技術やユーザー体験を良くして世の中を変えるという純粋な気持ちで始めています。プロジェクトをはじめた後からレギュレーションが複雑化してきているのが現状で、そこに課題があるのも事実です。

しかし、実際には増島先生をはじめ、優秀な専門家は日本にも存在しています。法律など規制面での話題が多くなりがちですが、まずはレギュレーションを度外視して、価値あるプロジェクトを実行してもらいたいし、自分たちもそうなっていきたいと考えています。法務などのレギュレーション周りは優秀な専門家に頼りつつ、ブロックチェーンでどうやって世の中を変えられるかという本質を追求していくことが重要です。

前編では、「日本でブロックチェーン事業を行う際のレギュレーション」について増島雅和氏の基調講演をレポートしています。
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森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士増島雅和氏、株式会社Aerial Partners代表取締役の沼澤健人、ALIS CEOの安昌浩氏